
就業規則について考えるとき、最初に出てくる疑問は、「うちにも必要だろうか?」というものかもしれません。
社員数がまだ多くない会社や、身近な距離感で仕事を進めている組織では、ルールを文章でまとめる必要性を感じないこともあります。
実際、「何となく」でやり取りが成立しているうちは不便がないため、就業規則の整備は後回しになりがちです。
しかし、組織が成長するにつれて、少しずつ「以前とは違う空気」を感じる瞬間が訪れます。
その変化は、ある日突然ではなく、小さなきっかけの積み重ねとして現れます。
今回は、そうした“見過ごしやすい兆し”を整理しました。ひとつでも当てはまる場合、就業規則の整備を検討するタイミングかもしれません。
① 同じ状況でも対応が人によって変わっている
例えば遅刻、休暇、残業など。そのときどきの判断や担当者の感覚に任せて対応していると、社員から「人によって扱いが違う」という印象を持たれることがあります。
こうした認識の差は、小さくても積み重なることで、公平性への疑問や不信感につながることがあります。
② 説明するときに「前回こうしたから」という理由が増えてきた
判断の根拠がルールではなく“前例”になっている場合、企業としての基準が曖昧になり、例外対応が増える傾向があります。
気づかないうちに、判断の軸が会社ではなく「状況」や「相手」に寄ってしまうことがあるため、注意が必要です。
③ 採用が増えたことで、働き方の価値観の違いが現れてきた
中途採用者が増え、他社経験のある人材が多くなると、職場の暗黙の了解は通用しなくなります。
これまで当然のように共有されていた考えやルールが、十分に伝わっていないと感じる場面が増えることがあります。
これは、組織が成長しているサインであり、同時にルールを仕組みとして整備するタイミングでもあります。
④ 「もしこうなったら?」に答えられないケースがある
例えば、
- 休職や復職の扱い
- 試用期間中の評価や対応
- 副業や兼業のルール
- テレワークの線引き
こうした場面で明確な判断基準がない場合、経営者や管理者に迷いが生まれます。
迷いがある状態では、その時々で判断が変わったり、伝え方によっては社員の受け取り方が変わり、結果として齟齬が生まれることがあります。
⑤ 問題が起きたときに「決めておけばよかった」と感じたことがある
これは多くの企業が経験する瞬間です。
トラブルそのものよりも、「どう対応すべきか」の判断に時間がかかることこそ、経営に影響します。その時間や労力は、本来の業務に使うべきものかもしれません。
組織が動き始め、人が集まり、役割が生まれるほど、就業規則は単なる文書ではなく、会社と社員双方を守る仕組みになり、信頼関係の構築に繋がります。
すべてを一度に整える必要はありません。企業の状況に合わせて改善しながら運用することで、就業規則は「形だけ」から「役立つもの」へ変わっていきます。
もし、今回のサインの中にひとつでも心当たりがある場合、今が就業規則の整備を考える良いタイミングかもしれません。
※本記事は一般的な考え方や事例を紹介するものであり、法的アドバイスを目的としたものではありません。 就業規則の作成や改定、運用についてより適切な判断が必要な場合は、どうぞお気軽にあすか社会保険労務士事務所へご相談ください。

《この記事を書いた人》
永井正勝/社会保険労務士 歴28年
川崎市役所、独立行政法人環境再生保全機構、総務省年金記録確認神奈川地方第三者委員会の職歴を経て、平成19年に社会保険労務士登録。平成20年にあすか社会保険労務士事務所を開業。「人を大切にする企業づくりから、社会に誇れる企業」へと成長する支援に尽力する『誠意の社労士』


