
2026年(令和8年)8月1日から、労働安全衛生規則の改正により、産業医が辞任・解任・退任した場合、事業者はその内容を所轄の労働基準監督署長へ報告することが義務付けられます。
これまでは、産業医を新たに選任した際には報告が必要でしたが、産業医が辞任・解任・退任した場合については、労働基準監督署への報告義務はありませんでした。
今回の改正により、産業医が不在となった事実や選任状況を行政が適切に把握できる仕組みが整備されます。
対象となる事業場
対象となるのは、常時50人以上の労働者を使用する事業場です。
ここで注意したいのは、企業全体の従業員数ではなく、原則として本社、支店、工場などの「事業場単位」で判断する点です。
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医を選任することが法律で義務付けられています。産業医が辞任・解任・退任した場合は、その旨を遅滞なく所轄の労働基準監督署長へ報告しなければなりません。
報告は電子申請が原則となり、「e-Gov電子申請」などを利用して行います。ただし、当分の間は経過措置として、書面による報告も認められています。
なお、新しい産業医の選任報告を行う際に、前任の産業医の辞任等について併せて報告した場合は、辞任等に関する報告を別途行う必要はありません。
新しい産業医は14日以内に選任する必要があります
産業医が辞任した場合、「労働基準監督署へ報告すれば手続きは完了」というわけではありません。
産業医を選任すべき事由が発生した日から、14日以内に新しい産業医を選任する必要があります。
後任の産業医を探すには一定の時間を要する場合もあります。そのため、辞任の申し出を受けてから準備を始めるのではなく、契約期間や更新時期をあらかじめ把握し、万が一の際に相談できる医療機関や産業医紹介サービスなどを確認しておくことも大切です。
衛生委員会等への報告も必要です
産業医が辞任した場合や、会社が産業医を解任した場合には、労働基準監督署への報告とは別に、その事実と理由を遅滞なく衛生委員会または安全衛生委員会へ報告する必要があります。
特に産業医の解任については、「会社にとって都合の悪い意見を述べたために解任した」と受け取られることがないよう、経緯や理由を整理し、適切な手続きを行うことが重要です。
産業医は、労働者の健康を守るため、専門的かつ中立的な立場から事業者に意見や勧告を行います。会社には、産業医の活動に必要な権限や情報を提供し、その専門性や独立性を尊重する姿勢が求められます。
今回の改正を機に産業保健体制の確認を
今回の改正は、単に報告書類が一つ増えるというものではありません。
産業医の交代時に手続きや引き継ぎが滞ると、健康診断後の就業判定、長時間労働者への面接指導、ストレスチェック後の対応など、従業員の健康管理に影響する可能性があります。
企業としては、次の点を改めて確認しておきましょう。
・産業医の契約期間や更新時期を把握しているか
・辞任等があった際の社内報告ルートが決まっているか
・衛生委員会等への報告手順が整備されているか
・後任の産業医を速やかに選任できる体制があるか
・労働基準監督署への電子申請を行える担当者が決まっているか
法改正への対応だけでなく、従業員が安心して働ける環境を維持するためにも、産業医との連携体制や社内の安全衛生管理体制を見直す機会としてはいかがでしょうか。
産業医の選任や変更に伴う手続き、安全衛生管理体制についてお困りの際は、お気軽にご相談ください。
参考資料
厚生労働省「産業医による労働者の健康管理等を徹底しましょう」(2026年4月)
厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について」(2026年4月28日)

《この記事を書いた人》
永井正勝/社会保険労務士 歴28年
川崎市役所、独立行政法人環境再生保全機構、総務省年金記録確認神奈川地方第三者委員会の職歴を経て、平成19年に社会保険労務士登録。平成20年にあすか社会保険労務士事務所を開業。「人を大切にする企業づくりから、社会に誇れる企業」へと成長する支援に尽力する『誠意の社労士』


